研究概要 |
古典結晶学で許されない回転対称性を持つ「準結晶」の発見は20世紀後半の物質科学上の大発見の1つであるが,この20年研究は主に合金系で閉じられていた.一方,近年ナノテクノロジーの隆盛も相まって,ソフトマターにおける自己組織化構造が注目を浴びているが,高分子領域では準結晶のような複雑な構造は発見されていなかった. われわれは2007年度,高分子準結晶発見の論文を公表し,金属(ハードマター)だけでなく高分子(ソフトマター)にも準結晶が存在することを明らかにし,スケールによらない準結晶構造の普遍性を示した.これは物質科学上の大きな発見といえ,アメリカ物理学会のPhys.Rev.Focus,アメリカ化学会機関誌Chemical Engineering News,雑誌Nature,雑誌Science,高分子学会誌表紙でも取り上げられ,また日本物理学会でも企画講演,シンポジウムでも取り上げられるなど話題を呼んでいる.これらのことを通して,高分子系ソフト準結晶を準結晶研究分野に確立し,同時に,準結晶構造を高分子研究分野に確立する端緒になった.この高分子準結晶の長さスケールは金属系の数百倍スケールアップしたメソ領域,すなわち光波長に近く,光コンピューターへの夢を持つフォトニック結晶への応用への夢も広がる.そこで準結晶に関連するアルキメデスパターンのフォトニックバンド計算を行い,論文を公表した.また,こういった複雑なパターンの理論計算を行い,それらがなぜ出来るかの起源論を議論する論文を公表した. この研究題目の研究目的は,高分子準結晶の実験的発見,および発見されるべき高分子準結晶の構造と物性の理論的研究を推進することであるが,1年度は,ハードマターとソフトマター,物理と化学という異なる研究分野を横断した高分子準結晶を実験的に発見し,理論的にも研究を進め,物質科学の多様性を多いに拡大する研究を遂行したと言える.
|