層状超伝導体α型(FeOC1型)K_xTiNC1(T_c=17K)の低温走査トンネル顕微鏡(STM)測定を行い、温度5Kの超伝導状態において劈開c面の表面原子像の観測に初めて成功した。観測された原子斑点は長方格子状に配列し、その間隔0.406nm x 0.329nmはX線回折データと良く一致する。この最表面原子はTi原子と考えられるが、NやC1もTiと同じ周期を持ち、この原子の種類を同定するためにさらに詳しく調べている。また、走査トンネル分光(STS)により2Δ=10-15 meVの局所超伝導ギャップを観測した。これはギャップ比2Δ/k_BT_cがBCS理論の約2-3倍の強結合状態にあり、以前、我々が測定したβ型(SmSI型)の結晶構造を持つHfNC1(T_c=25K)のものと同様であることが明らかとなった。さらに、T_cよりも遥かに高い40Kにおいて擬ギャップ構造を観測した。現在、この起源を探っている。 このような研究と平行して、フェルミ面のネスティングにより形成される半導体ギャップを伴う不均一CDW超伝導からなるトンネル接合系を有限温度で議論した。このCDW超伝導接合系のトンネルスペクトルを計算することにより、低温では、超伝導ギャップとCDWギャップの共存による顕著なDIP-HUMP構造を持つ正負バイアス非対称トンネルスペクトルが再現できることを示し、高温の超伝導臨界温度付近では、フェルミ面に擬ギャップ的な幅広い浅い落ち込みが残ることを示した。これらはBi系高温超伝導トンネルスペクトルで一般に観測されているDIP-HUMP構造と擬ギャップ構造が同一の起源を持つ可能性を初めて直接的に示したものであり、DIP-HUMP構造と擬ギャップ構造は個別に議論することができないことを明らかにした。この結果は高温超伝導の中心的問題に新しい知見をもたらした。
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