研究概要 |
アクチノイド化合物の基礎物性を理解するために、蛍石構造をもつ二酸化アクチノイド化合物を典型物質に選び研究を開始した。まず、相対論的バンド計算の手法を用いて、一連の二酸化アクチノイド(ThO_2、 UO_2、 NpO_2、 PuO_2、 AmO_2)の電子構造を系統的に明らかにした。その結果、ThO_2についてはバンドギャップの大きさを除けば実験結果をよく説明するが、それ以外の物質はモット絶縁体であるため、局所密度近似(LDA)法を基礎とするバンド計算では説明することが困難であった。例えばUO_2の場合、LDA法でバンド計算を行うと、フェルミエネルギー近傍において、f-電子とp-電子が混成してバンドを形成し、金属的な電子構造となり、実験結果と大きく異なる。また、アクチノイドイオンの波動関数の空間分布を考えてみると、Γ8は軸方向伸びているが、Γ7は主軸を避けるように[1,1,1]方向に分布している。負の電荷をもつ酸素イオンが[1,1,1]方向に位置することを考えると、クーロンエネルギーで損をしないΓ8が基底状態になり、Γ7が励起状態になるはずであるが、LDAの下でのバンド計算では、Γ8とΓ7の順序が逆転した結果となってしまう。そこで、この様な矛盾が起こらないようLDA法に結晶場効果を陽に取り込む"LDA+CEF法"を開発し、AnO_2の電子状態の理解を進めた。さらに、AnO_2の電子状態を微視的観点から理解するため、電子模型構築を進めるが、その指針を得るための解析を行った。この電子模型は、強束縛近似によるf-およびp-電子の遍歴項と混成項、f-電子間相互作用項、そして結晶場項からなり、Slater-Kosterとしては、(ffs),(fps),(fpp),(pps),(ppp)の5つを考えている。その解析の結果、Γ8とΓ7は(fpp)について敏感に変化することがわかり、LDA+CEF法によるAnO_2の電子状態の解析において、重要な意味を持つことがわかった。
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