研究概要 |
本研究は,第一原理分子動力学法の理論的枠組を構築し,これをMn_3Ptの磁気構造に応用することを目的としている.Mn_3Ptは三次元フラストレート型反強磁性体と考えられ,その磁気構造には興味が持たれているが,これまでに遍歴磁性理論の立場からの理論的解析がなされたことはない.平成19年度と20年度においては,第一原理分子動力学法の理論的定式化とMn_3Ptの非磁性基底状態の電子状態計算を行い,分子動力学計算で用いる第一原理TB-LMTOハミルトニアンを構築した.また,Mn_3Ptのd電子状態はX点付近で平坦バンドを形成し、そのことを反映してd電子のEg状態密度が二つの主ピークの間に副ピークを形成することを見出した.さらに,Mn_3Ptのフェルミエネルギーの位置が副ピークの位置と一致することも見出した.平成21年度は,第一原理TB-LMTOハミルトニアンから出発して,Mn_3Ptに対する分子動力学計算を試みた.仮想スピンの運動に対してエルゴード性を仮定し,熱平均を時間平均で置き換えることにより,分子動力学の運動方程式の定常解から局所磁気モーメントの熱平均値を求める.運動方程式の中の磁気力は,各分子動力学ステップにおいてリカージョンを適用し,電子系のグリーン関数から求める.数値計算の対象とする系は,周期境界条件で結ばれた27個のfcc単位胞からなる立方体クラスターである.クラスターの外側は自己無撞着に定める一様な有効媒質で置き換える.ネール温度(475K)より十分低い25Kにおいて,3×3×3のfcc単位胞を用いて行った数値計算では,実験結果とほぼ一致するノンコリニアはMn局所磁気モーメントの配置が得られたが,系のサイズが小さいために,磁気構造の詳細について明確な結論が得られなかった.数値計算結果の信頼性を高め,磁気構造の詳細を明らかにするために,現在は4×4×4のfcc単位胞を用いた数値計算を実行しているところである.
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