本研究では磁性と誘電性の結合メカニズムの解明を目指し、一連のRMnO_3単結晶(R=希土類)を作製し、結晶軸の切り出しを行った試料に対し磁場下での誘電率、自発分極、結晶格子歪み、および磁化の測定を行った。本年度は強誘電相と弱強磁性相を同時に示すとされるEu_<0.8>Y_<0.2>MnO_3に注目し、電気磁気特性を測定した。Eu_<0.8>Y_<0.2>MnO_3結晶では、c軸方向への磁場8T印加時に一度消滅したR軸方向の自発電気分極が、磁場スイープにより再び発現するという特異なメモリー効果が観測された。また、特殊なポーリング条件によりゼロ磁場でも弱強磁性強誘電相を発現することを見出した。 前年度に引き続き、上記の研究と平行して新規マルチフェロイック物質の探索を行った。低次元構造特有のフラストレートした磁気構造に注目し、巨大電気磁気効果を示す新しい磁性強誘電体の開拓を行った。実際にはBaCo_2Si_2O_7、Ba_2CoSi_2O_7、Ca_2CoSi_2O_7の3つの低次元Co酸化物結晶について良質な単結晶を作製し、誘電率・自発電気分極・磁化・比熱の測定を行った。その結果、BaCo_2Si_2O_7、Ba_2CoSi_2O_7では、強誘電転移は観測されなかったが磁性と誘電性の強い結合がみられた。Ca_2CoSi_2O_7では、磁場を印加することで焦電体の振る舞いが観測された。これは「磁場誘起焦電体Jという新しい電子物性を示しているのではないかと考えられる。現在、X線・中性子回折実験により、結晶構造・磁気構造を微視的に調べ、この磁場誘起焦電性やその磁性誘電性結合のメカニズムを詳細に検討している。
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