本研究では、軌道秩序と磁気秩序の共存あるいは競合が重要と考えられる系に対して静水圧力を加えて軌道状態を制御し、そこに現れる磁気的応答を中性子回折法により研究する。また、この研究を通して10GPa級高圧力下単結晶中性子回折実験のための技術開発を行うことも大きな目的の一つである。 平成20年度はYVO_3について研究を行い、C型軌道秩序(C-OO)に対応する構造相転移とG型磁気秩序(G-SO)に対応する磁気反射の同時観測に成功し、この物質でC-OOとG-SOが高圧まで完全に一致することを直接明らかにした。また、6.2GPaでは軌道・磁性無秩序状態から、C-OO・C-SO相を経ずに、直接、C-OO・G-SOへ転移することを観測した。 次に、10GPaの圧力発生を目指して、これまでのハイブリッドアンビル技術のさらなる高度化を行った。具体的には、(1)ダイヤモンドキャップ式サファイアアンビル、(2)サポート型サファイアアンビル、(3)サポート型SiCアンビルを考案し、加圧試験を行った。その結果、(3)の方式で、中性子磁気回折に必要な試料空間を維持した状態で10GPaを発生させることに初めて成功した。この圧力値は、低温高圧下単結晶中性子回折法としては未踏の圧力領域であり、金属や絶縁体の軌道状態や磁気状態、さらには結晶構造を直接制御することができる10GPaという超高圧力を中性子回折法に導入できたことは物性研究を行う上で極めてインパクトがある。
|