本研究では、軌道秩序と磁気秩序の共存あるいは競合が重要と考えられる系に対して静水圧力を加えて軌道状態を制御し、そこに現れる磁気的応答を単結晶中性子回折法により研究する。また、この研究を通して10GPa級高圧力下単結晶中性子回折実験のための技術開発を行うことも大きな目的の一つである。 平成21年度は、MP35N合金で側面サポートしたSiCアンビルとWCアンビルを組み合わせたハイブリッドアンビル技術により常に安定して10GPaの圧力発生が可能となることを実証した。具体的には、SiCアンビルのサポート角度10°、アンビルのキュレット直径2.7mmφ、JIS2017のAl合金ガスケット(初期厚0.3mm)、グリセリン静水圧力媒体、という条件で最高10.5GPaの圧力を発生させたがアンビルは極めて安定しており、さらなる高圧力の発生も可能であることが判った。この圧力領域は、低温高圧下単結晶中性子回折法としては未踏の圧力領域であり、物性研究を行う上で極めてインパクトがある。 上記の技術を用いて充填スクッテルダイト化合物PrFe_4P_<12>について10.5GPaまでの単結晶中性子回折実験を行った。その結果、2.5GPa以上で誘起される反強磁性秩序相が圧力で極めて安定化され、磁気秩序化温度が50Kにも達することが判明した。このような高い磁気転移温度は、Pr化合物のみでなく軽希土類化合物としても極めて特異な現象である。この物質の圧力誘起反強磁性秩序相が同時に絶縁体相であることを考えると、本研究の結果は、磁気秩序を極度に安定化させる新奇なメカニズムが存在すること示したと言える。
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