共鳴X線回折実験は希土類化合物やアクチノイド化合物の4f、5f電子系における多極子秩序を検出する極めて強力な手法として知られているが、現実的には逆空間全体を走査できないという欠点を抱えている。本研究ではX線構造解析で広く用いられている振動写真法を共鳴X線回折実験に適用することによりこの問題を克服し、共鳴X線回折実験による多極子秩序検出の一般的手法を確立することを目的としている。 平成19年度は、17Kで磁気転移を起こすGdPd_2Al_3をテストサンプルとし、二次元検出器としてSPring-8とPSIが開発したPILATUS-100Kを用い、測定系の実証試験を行った。結果、心配されたバックグラウンドの影響は低減することができ、多極子秩序検出に適用できることが確認できた。 平成20年度は、オランダで開かれた低温国際会議(LT25)及び盛岡で行われた日本物理学会でこの結果をポスター発表し、多数のf電子系の研究者から評価を得た。さらに本手法を多極子秩序の存在が疑われながら未だ秩序パラメータが不明なURu_2Si_2に実際に適用し、秩序パラメータの探索を試みた。共存する微弱な磁気反射がかろうじて観測できるS/Nを得ることが出来たが、残念ながら、それ以外の共鳴回折ピークを逆空間のどこにも見出すことができなった。否定的な結果ではあったが、非整合な多極子秩序の存在を検証することができ、一定の成果になったと考えている。
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