研究概要 |
近年、従来のBoltzmann-Gibbsエントロピーを実数パラメータにより拡張したエントロピーを導入し、統計力学を一般化する試みが注目されており、統計物理学の分野のみならず、情報理論、生物物理、金融工学、経済物理などの分野にも適用され始めている。従来の統計力学において(線形)拡散方程式やBrown運動の物理的メカニズムの理解が重要であったように、パラメータ拡張したエントロピー最大原理に関連する非線形拡散方程式を明らかにし、その拡散方程式で記述される異常拡散現象を物理的に理解することが非常に重要である。 本研究は、2002年にG. Kaniadakis, A.M. Scarfone両博士により提案された実数パラメータκにより拡張されたエントロピーであるκエントロピーに特化した研究であり、最終的な目標は、κエントロピーに基づく統計力学の基本原理であるκエントロピー最大原理を基礎付けている物理機構を、関連する異常拡散過程を記述する非線型方程式の解の時間発展の観点から明らかにすることである。今年度の主目標に関して、以下の研究成果を得た。 1.κエントロピーに基づく統計力学の基礎過程となる異常拡散現象を記述する非線型拡散方程式および関連する非線型Fokker-Planck方程式の具体的表式を求めた。 2.この非線型Fokker-Planck方程式の解の時間発展を特徴付けるリアプノフ汎関数を求め、時刻無限大における停留解(平衡解)がκエントロピーを最大とする最適解に等しいことを示した。 3.また、このリアプノフ汎関数は、パラメータκで拡張された自由エネルギーの差で表されることと、更に凸解析や情報論におけるBregmanダイバージェンス(相対エントロピ)を用いて表せることが判った。
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