平成19年度は研究目的にある課題(1)〜(3)の中で、特に(2)に関わる研究を精力的に進展させた。非平衡定常系全般に潜む熱力学的構造に光をあてるため、統計力学的見地にたち、微視的状態についての分布関数を書き下すことをめざした。平衡系の詳細釣り合いを非平衡に拡張した関係式として知られる局所詳細釣り合いを出発点とし、線型応答領域(平衡状態のゆらぎによる分布関数の表式が確立済み)を越えて、2次の非平衡度まで成立するわかりやすい表式を得ることに成功した。具体的には、平衡系のカノニカル分布におけるボルツマン因子を、熱浴における過剰エントロピー生成(または熱浴から系に流れ込む過剰熱)のペアで記述するように書き直せば、2次の非平衡度まで正しい表式となることを示した。これまで知られていた定常分布の形式的表式はエントロピー生成そのもの(つまり過剰分ではない量)を用いて表現されており、時間とともに発散するエントロピー生成という量がどのようにして分布を表現するに至るのかなど、非自明な効果を含む非直感的なものであった。我々が得た表式はこのような状況を打破しただけでなく、これを出発点に非平衡定常系の統計力学を発展させることも可能なわかりやすく扱いやすい表式となっており、今後の大きな発展をもたらすと期待できる。 課題(1)については、モデルタンパク質の数値計算を通してタンパク質の記憶効果を定量化することを目指し、長時間スケールでの時間相関関数の特徴を検討した。相関関数自体の収束性の問題(設定した初期条件に依存する相関関数の大きなゆらぎ)を確認し、この特徴をどのように定量化するかという新たな課題が生じた。この課題の克服は次年度に行う予定である。
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