生体分子は非平衡状態で機能を発揮し、また分子自体に記憶を有するという著しい特徴を持つメゾスコピック系である。生体分子の機能を解明するために、物理学の立場にたった基礎研究として、4年間で (1)強い非平衡状態下での熱力学関係式の完成と発展規約の定式化 (2)生体分子の記憶効果の定量化 (3)記憶効果を内包した系の強い非平衡状態下での発展規約の定式化に取り組む予定である。 研究計画の第2年度にあたる本年度は(1)(2)に重点的に取り組んだ。 (1)については、第1年度に得ていた非平衡定常状態の分布表現をもとに、非平衡下での状態間遷移について統計力学的議論を推し進めた。その結果、ク-ラウジウス関係式を非平衡定常系に拡張することに成功し、エントロピーや自由エネルギーを非平衡問題に適用できる熱力学関数に拡張することができた。拡張した熱力学エントロピーを対称化シャノンエントロピーと結びつけることにも成功した。 (2)については、タンパク質の簡単化モデルであるGo-likeモデルを用いて数値計算を中心とした研究を行った。動的転移温度をはさんでモデルの揺らぎ特性がどのように変化するか定量的に議論するために、4点相関関数を用いて揺らぎの異常性を特徴付けた。この手法は最近ガラス転移の臨界指数を議論する土台としていくつかのガラス系や粉体系で計測が試みられているが、タンパク質に適用しようという試みはわれわれがはじめてである。 また以前提案したタンパク質の熱力学を扱うための方法論の適応範囲と問題点を徹底して洗い出し、理論ベースでの改善を加えた。それによって、以前提案した方法が比熱や内部エネルギー見積もりには有効な方法となっていることを示すことができた。
|