計画3年目に、2年目に報告した熱力学関係式は線形応答理論の熱力学的表現であることを明確にし、さらに、2次の非平衡度まで正しい熱力学関係式を構成するには線形応答理論に基づく知見では不足があること、熱力学関係式には非自明な相関項(熱と仕事の相関)を加えなければならないことを見出したので、その成果について詳細に説明する論文を執筆し出版した。また定常的に熱伝導する多粒子系について数値計算により過剰熱測定を行い、2年目に得た非平衡系に拡張されたクラウジウス関係式を用いて非平衡定常状態でのエントロピーを決定した。その成果も論文として発表した。次に、拡張クラウジウス関係式を自由エネルギー導入のもと力学的関係式に書きなおし、非平衡定常系に加えられる仕事についての熱力学形式について研究した。非平衡下では、仕事と系を通過する過剰熱の間にオンサガー的な相反関係が存在することを示し、その成果を物理学会にて発表した。この成果を広く発表するため、現在論文を執筆中である。 上記の非平衡系の研究の一方で、タンパク質の記憶効果について理解の緒をつけるため、ガラス転移で用いられる指標が折りたたみ転移点で示す特異的変化について研究した。4点相関関数を用いた数値的研究は計画2年目にも行っているが、動的相転移点に着目してもあまり明確な特徴は得られず、混迷を深めていた。そこで今回は折りたたみ転移点に焦点を絞ったところ、転移温度のごく近傍でのみ4点相関関数が特異的変化を示す様子が見られた。現在、より顕著に変化をとらえるべく数値データの統計性を上げる作業を行っており、同時並行で論文を執筆中である。
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