量子力学・場の量子論において、ハミルトニアンから物理量の数値計算をする第一原理的方法は極めて重要であり、申請研究課題は、新たな第一原理的な数値計算方法である「確率的状態選択法」の開発である。この方法はモンテカルロ法の原理的改良になっており、従来ではできなかった確率的計算が可能になっている。 H19年度の研究においては、確率的状態選択法の能力をさらに開発して実用的方法とするための改良をおこなった。具体的な計算対象は三角格子ハイゼンベルク量子スピン系(48サイト)である。この系において良い試行状態を作り出す方法について研究をおこない、その方法を確立した。良く知られているように三角格子量子スピン系の古典システムは強いフラストレーションのために、単純な古典配置がない。そこでまず変分モンテカルロ法の考えを利用し、スピンのz成分のみを含む古典ハミルトニアンを用いて、そのエネルギーが最低である状態を見つける。こうして集めた状態数は数百万個で、対称性を考慮した基底では約1万個になる。この1万個の状態を初期状態にして、ハミルトニアンを演算することにより、より良い近似状態を得ていく。この方法は、全スピンが1以上の励起状態の良い試行状態をつくることにも適用できた。 また確率的状態選択法の数学的可能性を更に探求し、負符号の問題が生じる系においても十分な状態数をとれば統計的平衡があることを見出した。このことを用いれば、高い精度でエネルギー固有値が求められることがわかり、論文として公表した。
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