量子力学・場の量子論において、ハミルトニアンから物理量の数値計算をする第一原理的方法は極めて重要であり、申請研究課題は、新たな第一原理的な数値計算方法である「確率的状態選択法」の開発である。この方法はモンテカルロ法の原理的改良になっており、従来ではできなかった確率的計算が可能になっている。 平成22年度は制約条件を取り入れた確率的状態選択法を48サイト三角格子量子スピン系に適用して、いろいろな物理量の計算に適用できることを示すことができ、これを公表した。 制約条件つき確率的状態選択法では選択する状態と特定の状態との内積をどのサンプルにおいても一定にする、つまり統計的揺らぎをゼロにすることができる。この方法を利用して48サイト三角格子量子スピン系のエネルギー計算をおこなった。スピンのZ成分が0,1,2,3、4の状態の最低エネルギー計算結果により、三角格子量子スピン系が自発的対称性の破れを起こしていることを理解できた。さらに波数ベクトルをもったマグノンを含めたエネルギー計算により、マグノンスペクトラムは線形スピン波解析では理解できず、系の不安性の理解がすすんだ。 またとても大きなサイズでは変分モンテカルロ法(VMC)が利用されているが、この方法との融合の研究を始めた。VMCでは試行波動関数でエネルギー期待値などは計算できるがエネルギーの2乗などは困難である。この困難を克服するために確率的状態選択法の適用を研究対象にしてこの2乗の計算が可能であることを示せた。具体的な計算対象は三角格子XY量子スピンシステムである。
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