カノニカルスピングラスではジャロシンスキー-守谷(D-M)型異方性は、スピングラス転移の性質に強く影響を与えると考えられている。この異方性の大きさを、ホスト金属の原子の軌道半径と異なる非磁性金属原子のドープで制御し、カイラリティ起源異常ホール効果の測定を行った。この測定より、カイラリティ起源異常ホール効果は、D-M異方性の大きさに比例することが分かった。この結果は、弱結合系の理論的な予測と一致し、D-M異方性がカイラリティと磁化の結合常数の役割を果たしていることを示すものである。この成果は現在論文投稿中である。 今年度は新たに、金属的な振る舞いが観測されているパイロクロア酸化物Ca_2Ru_2O_7の、スピグラス様転移の詳細解明のために、精密磁化測定を試みた。代表的パイロクロア酸化物R_2Ru_2O_7(Rは希土類元素)は、幾何学的フラストレーションによりスピングラスが発生すると考えられている興味深い化合物で、Rの原子半径の大きさにより金属絶縁体転移を起こし、金属相でカイラリティ起源による異常ホール効果が報告されている。また、絶縁体はスピグラスであるが、その起源は未だ不明である。Ca_2Ru_2O_7は、金属的でスピングラスが観測された最初のパイロクロア酸化物で、我々が研究を行ってきた合金糸のカノニカルスピングラスとの対応が興味深い。試料は中央大学佐藤研究室から提供していただき、精密磁化測定から臨界指数の決定を試みている。その成果の一部は、9月にドイツで開催された国際会議で発表した。
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