1. TDDFT-MD法による外場励起電子状態が駆動する原子ダイナミクスのプログラム開発とその応用: 高強度長短パルスレーザーを水素と重水素が吸着したグラフェンに照射したときの脱離ダイナミクスを、実空問時間依存密度汎関数法と分子動力学法を組み合わせたTDDFT-MD法で解析した結果、顕著な同位体効果を見出した。これは、実験結果を理論的に検証したものである。結果は論文に発表した。並行して開発してきた平面波基底TDDFT-MDプログラムを使って、低速Ar多価イオンのグラフェンへの衝突シミュレーションを行った結果、グラフェン表面原子構造変形がイオンの価数が大きく低速であるほど顕著であること、グラフェンからイオンへの電子移動が瞬時にかつイオンの中性化がほぼ完全に起こることを見出した。結果を論文として投稿する予定である。 2. カーボンナノチューブ(CNT)スピン三重項励起子発光機構の解明: CNTスピン三重項励起子は発光しないとされてきたが、最近の実験で水素吸着CNTからスビン三重項励起子の発光が報告された。この機構解明を目的にBethe-Salpeter方程式を解くことによって水素吸着CNT励起子状態を解析した。その結果、吸着水素がsp3電子状態を誘起しスピン軌道相互作用を増大させることで光学禁制であったスピン三重項励起子が光学許容になることを明らかにした。本計算で得られた光吸収スペクトルは実験結果を見事に説明した。結果は、論文に発表した。 3. 非平衡分子動力学(NEMD)法による温度勾配下ナノ物質輸送のシミュレーション: 温度勾配のあるCNTとグラフェンに束縛されたフラーレンの質量輸送のシミュレーションをNEMD法で実施した結果、フラーレンとCNTとの層関距離がグラファイト層間距離(~3.3Å)程度になるときに明瞭な質量輸送が生じた。この結果から、質量輸送にはファン・デル・ワールス相互作用が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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