フェルミ原子ガス超流動について理論的に研究し、強い超流動揺らぎが状態密度や1粒子スペクトル強度に与える影響を超流動転移温度以上で明らかにした。引力相互作用を強くしていくと、超流動揺らぎの影響で擬ギャップ効果が顕著となり、フェルミ面近傍の状態密度の減少や1粒子スペクトル強度におけるダブルピーク構造が見られるようになるが、強結合BEC領域に入ると、強結合分子ボソンの形成の影響でこれら物理量に大きなギャップ構造が現れることを見出した。更に、これら(擬)ギャップ構造の温度変化を調べ、状態密度中の(擬)ギャップが消える温度と1粒子スペクトル強度中の(擬)ギャップ構造が消える温度が異なることを明らかにした。 以上の結果をもとに、2008年にJILAグループで行われたフェルミ原子^<40>Kガスにおける光電子分光型実験で得られたスペクトル強度の分析を行った。その結果、実験結果には今回我々が得た一様系での計算結果では説明しきれない部分があることが分かった。これは、原子気体の特徴である「トラップポテンシャル」による系の非一様性が超流動ゆらぎに重要な影響を与えていることを示している。従って、今度の研究の方向性として、非一様な超流動揺らぎ、強結合効果を取り込むことが重要である。今年度の一様系の結果はそうした次へのステップの出発点として非常に重要な意義を持っている。 今年度はフェルミ原子ガスを凝縮系物理学研究に応用するための研究も実施した。具体的には、(1)光学格子中のフェルミ原子ガスを用いて強相関電子系で議論されているd波対称性を有するスピン密度波を実現させる提案、(2)フェルミ原子ガスを用いて超流動/強磁性/超流動接合を作り、超伝導接合で議論されているπフェイズ(接合の左右で超伝導秩序パラメータの位相がπずれた状態)を実現させる方法の提案、を行った。
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