パルスラジオリシスの研究において、電子ビームの安定性向上は重要な課題である。本年度は、昨年度に本研究を進める過程で世界で初めて発見したHigh-Zガスを用いた安定的な電子ビーム発生に関する実験研究が、優先度が高く学術的にも重要であると考え、申請当初の研究予定を修正する形でこの研究を中心に実施した。その結果、高度にプレパルスを制御したレーザー条件において従来のヘリウムガスターゲットから、アルゴンガスターゲットに変更することで、従来に比べ、4倍近くの位置安定性の向上と、1/3以下までビーム発散角の抑制ができることを明らかにした。さらに窒素ガスターゲットを用いることで、安定性を確保した上で電子線のエネルギーを従来の20MeVから50MeVまで向上できることも明らかにした。また、レーザーがプラズマ中を伝搬する場合に起こるプラズマ中での屈折が、アルゴンおよび窒素ガスにおいては従来のヘリウムガスに比べて小さく、屈折によるレーザー光の発散が効率的に抑制されるとともに、加速場を構成するウェーク場が長尺化するため、発散角の抑制および位置安定性の向上がもたらされるというメカニズムをPCを用いた光線追跡計算からわかった。またこの実験で別途実施したトムソン散乱計測からも妥当な長尺伝搬を示すイメージ計測の結果が得られ、その長尺の距離もリーズナブルであることが明らかになった。また、この結果は電荷量の安定性にも大きな改善効果をもたらし、旧来の50%から30%に改善した。以上の結果は、今後のフェムト秒パルスラジオリシス研究を含めた電子線応用に直結する重要な結果である。
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