大気圧下で水を通常の方法で冷却した場合、液体として存在できる下限温度(均一核生成温度)は235Kであるが、その温度以下・高圧下において、水には低密度水と高密度水が存在する可能性が計算機シミュレーションによりを指摘されている。しかしながら水は235K以下で結晶化するため実験により2種類の水を観測した例はない。そこで、235K以下でも液体で存在する水を見出すべく実験を行った。水のバルク試料における融点はH_2O、D_2Oそれぞれ273.15K、276.98Kであるが、その水を一次元の細孔径を持つMCM-41型シリカゲルFSMに充填し示差走査型熱量計によりその融解挙動を測定した。細孔径3.1nm(FSM16)の試料においては、吸着した水の融点は、H_2O、D_2Oそれぞれ224K、229Kであり、水における長距離秩序の消失に伴う融点の低下が観測された。バルク試料と同様D_2Oの融点の方が高く、その差は約5Kであった。また融解エンタルピーの値は、細孔内に取り込まれた水の一部が結晶化せずに液体のまま存在している可能性を示唆している。細孔内の水には多孔質シリカ界面の影響を受ける界面水と、界面の影響を受けない内部水が存在する。界面水は結晶化しない可能性が示唆されているため、結晶化した水は内部水であると考えられる。また、細孔径2.2nm(FSM12)と1.4nm(FSM8)の試料では細孔内部の水の融解に関する顕著な熱異常は観測されなかった。これは、内部水も過冷却して110K付近まで結晶化しなかったことを示唆している。以上の結果から、シリカゲル細孔中に水を充填することにより、235K以下でも水を結晶化せずに存在させられることが明らかになった。
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