大気圧下で水を通常の方法で冷却した場合、液体として存在できる下限温度(均一核生成温度)は235Kであるが、その温度以下・高圧下において、水には低密度水と高密度水が存在する可能性が計算機シミュレーションによりを指摘されている。バルクの水は235K以下で結晶化するため実験により2種類の水を観測した例はない。水の融点は273.15Kであるが、その水を一次元の細孔径を持つMCM-41型シリカゲルに充填し示差走査熱量分析(DSC)を行った結果、細孔径の逆数に依存して水の融点が低下することが見出された。そこで、シリカゲル内壁と水の相互作用を検証するためにMCM-41型のシリカゲルであるTMPS-4とその細孔壁面を3-aminopropyltriethoxysilaneで化学修飾したTMPS-4Mを用いてDSC測定及び窒素吸着による細孔径の測定を行った。TMPS-4の細孔壁面の修飾により充填された水の融点は低下し、融解ピークも幅広になることが明らかになった。壁面の修飾により融点が低下した原因としては(1)修飾により細孔径が小さくなったため、または、(2)修飾により壁面と相互作用する水(界面水)が増加したためと考えられる。そこでまず、融点の細孔径依存性からTMPS-4Mの細孔径を算出すると約3.3nmであった。次に窒素吸着測定による細孔径の算出を行った。TMPS-4は細孔径分布が狭く、均一的であるのに対して、TMPS-4Mは化学修飾により、細孔径分布が広がっていることが見出された。得られた平均細孔径はTMPS-4、TMPS-4Mそれぞれ3.9nm、3.3nmであった。TMPS-4Mの結果はDSCによって得られた結果と一致した。以上の結果は、細孔壁面の環境の変化は界面水の量に影響を及ぼさず、細孔内に充填された水の物性は、その細孔径のみに依存することを示唆している。
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