研究概要 |
リゾチームの4本あるS-S結合を任意に欠損させてできる変異体をタンパク質の折りたたみ過程の中間体として位置づけ、その構造をNMR分光法によって研究している。リゾチームS-S結合欠損変異体はS-S結合を欠損させる本数、部位によって、その構造は大きく変化する。Cys6-Cys127(SS1)とCys30-Cys115(SS2)を残した2SS(1+2)変異体は立体構造を保持しているが、Cys64-Cys80(SS3)とCys76-Cys94(SS4)を残した2SS(3+4)変異体と、Cys6-Cys127(SS1)とCys64-Cys80(SS3)を残した2SS(1+3)変異体は立体構造を保持しないランダムコイル状態である。また、タンパク質の秩序構造を安定化させるグリセロール存在下で2SS(1+3)変異体は秩序構造を回復し、2SS(3+4)変異体は秩序構造を回復しない。つまり2SS変異体は立体構造を保持するかどうかの境界であり、2SS(1+3)変異体や2SS(3+4)変異体の持つ部分秩序構造が折りたたみ初期過程における重要部位であると考えられる。 30%グリセロール存在下で2SS(1+3)変異体の重水素交換反応から、各アミノ酸残基におけるProtection Factor(P.E.)をNMR分光法によって測定すると、A,B,Cヘリックスとβ3ストランド領域で1000程度まで上昇した。しかし2SS(3+4)変異体ではP.F.は10程度であった。さらに2SS(1+3)変異体においてグリセロールの各濃度でP.F.を測定し、その構造変化を追跡した。グリセロール濃度の上昇に伴い、野生型リゾチームの折りたたみの核を形成するA,B,Cヘリックスとβターン領域のP.F.値が顕著に増大することが示された。その領域はリゾチーム2SS変異体の秩序構造回復における「要」の部分に該当すると思われる。
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