研究概要 |
平成20年度に実施した海底人工地震探査のデータの解析を行い,日本海溝陸側斜面下の地殻のVpとVp/Vsが,標準的な海洋性地殻と比較して,それぞれ,低下・上昇していることが確かめられた.海溝陸側斜面下に沈み込んだ海洋性地殻内では,Vpは海側斜面下よりもさらに低化していることが明らかとなった.こうした海溝軸内外での地震波速度変化は,海洋性地殻が海洋リソスフェアの屈曲に伴う正断層の発達と共に進展したものと解釈される.ただし,海洋性地殻内部の地震波速度は沈み込みにつれて増加に転じることが,過去の探査結果のレヴューからあきらかとなった.海溝軸近傍での地震波速度の低下は断層の発達による空隙率の増加によるものであり,沈み込みに伴う圧密により空隙率が減少することが速度の再上昇の原因であろう.速度が減少から増加に転じる地点は,プレート間地震が発生するようになる地点と概ね一致することから,圧密により海洋性地殻からプレート境界面へ供給される水がプレート境界面の固着状態に影響を及ぼす可能性がある.スラブ内で発生した地震を海溝外側で捉えたときの走時異常を用いて,海洋リソスフェアのマントル(スラブマントル)内部の地震波速度の推定を行った.その結果,人工地震探査と同様にわずかなVpの低下が示唆されるものの,Vp/Vs比には顕著な増加は見られなかった.これは,スラブマントルが正断層を介して流入する水によって顕著に蛇紋岩化するという従来の考えを支持せず,日本海溝では蛇紋岩化はあったとしても,限定的もしくは局所的に進行している可能性がある.一方,沈み込むスラブマントル内の異方性について,過去の地震探査のレヴューによって検討を行ったが,Vpの顕著な方位依存性を見いだすことはできなかった.北西太平洋で検出されているような高Vp(>8.0km/s)が全く観測されていないことから,速度低下とともに異方性が小さくなっていることが予想される.
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