平成19年度は、まず介在物分布による地震波の散乱に関して、申請者が以前に展開した理論の一般化をおこなった。申請者は以前、周囲との弾性的コントラストが低い介在物分布による地震波の散乱減衰に関して、「ランダム媒質の理論」と「離散的散乱体の理論」が等価であることを理論的に示したが、実際には2次元SH波散乱という限定的な(実質的にスカラー波散乱と同等の)場合を扱ったに過ぎなかった。本研究では、同理論を3次元弾性波散乱に拡張し、P波-S波間の変換散乱の効果も含める形で一般化した。その結果、上記の等価性が現実的な3次元弾性波散乱についても成り立つことを示すとともに、その等価性が成り立つための条件を具体的に求めることに成功した。また、各介在物のサイズが冪乗則に従って確率分布する場合には、過去の研究から示唆されたリソスフェアの空間パワースペクトルと同様の性質(波数の3〜4乗に反比例)を持ち得ることを明らかにした。次に、介在物分布モデルによる波動伝播の数値シミュレーションをおこない、波形のエンベロープを実験的に求めた。得られた波形に関しては、低速度の介在物が高速度のものに比べてコーダ波を強く励起する傾向が認められた。モデルパラメータを変化させながらシミュレーションを繰り返すことにより、その特性の抽出を試みたが、諸般の事情により計算プログラムの実装が予定より遅れたため、計算結果の整理が当該年度内には終了しなかったので、次年度に持ち越すこととした。
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