微細な断層構造の研究結果を応用するため、2008年5月に中国四川省で発生したWenchuang地震の初期発生の動的破壊モデルの構築を行った。本地震は、四川盆地の西端を南西から北東に約300km破壊が主に逆断層すべりとして伝播した地震である。しかしながら、発震点付近においては、地震直後の地質学的調査により、逆断層がほぼ平行に2枚走っており、それらをつなぐ共役断層が存在することがわかっている。このような断層形状は、跡津川断層コアに見られたミクロな構造と酷似している。運動学的なモデルを用いての観測された断層近傍に置ける地震は計データの解析から、推定されたすべりモデルにおいては、2枚の平行した断層が多少の時間ずれは存在するものの、ほぼ同時に破壊伝播する必要があることがわかった。通常、並行断層の場合、一方の断層破壊がはじまると、他方の断層はすべりが抑制される応力場が形成されるが、この地震の場合は、2面の断層が同時に破壊している必要がある。この現象は、横ずれ断層には見られない逆断層特有の性質かもしれない。そこで、動力学的モデルを用いて再現を試みた。一様な応力場を与えた場合、高角の断層よりも低角の断層の方が摩擦係数が大きければ、上記の2枚の断層が同時に伝播していく状況を再現することができた。これは、高角な逆断層によっては十分、蓄積されたひずみが解消されないものの、摩擦係数の大きい低角な逆断層をその後に破壊させることにより、高角な逆断層で解消されなかったひずみを低角な逆断層により解消できるというメカニズムによるものである。このような断層破壊パターンが普遍的に存在するのかどうか、今後調査していきたい。
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