研究概要 |
九州西方の男女海盆で採取された堆積物コア試料(MD982195)の結果から約1万4千年前および6千年前に地磁気エクスカーション(大規模な地磁気変動)の存在の可能性が示唆された。1万4千年前にはメルトウォーターパルス1Aとして知られている急激な海水準上昇が確認されている(Fairbanks,1989)。急激な海水準上昇は地球の慣性モーメントの増加をもたらし,角運動量の保存則から地球(地殻・マントル)の回転速度が急激に減少し、コア-マントル境界に強い差分回転を導入して地球磁場に大きな変動(地磁気エクスカーション)をもたらすことが予想される。本研究では、このような予想の下に男女海盆におけるKY07-04航海の4本の堆積物コア試料のうち未測定のPC2とPC3の2本のコアについて古地磁気測定を行った.特に,昨年度のPC1試料の測定で12,300年間(深さ852cm)に確認されたスパイク状の異常な残留磁化方位と強度の確認を行ったが,同一地点の試料PC2を含めていずれのコアの同層準試料からは異常な方位は見つからなかった.さらに,確認のためにPC1コアの古地磁気試料の横から採取した3cmと5cm幅のスラブ試料の古地磁気測定を行ったが異常方位は確認されなかった.未だ異常方位の原因は同定できないが,試料採取時の試料の乱れ,あるいは古地磁気試料のみに含まれていた続成作用で生成した磁性鉱物による化学残留磁化の影響が考えられる.古地磁気結果は本研究の目的を達成できなかったが,PC1コアの14層準から石灰質の浮遊性有孔虫をピックアップし14C年代測定を行った結果,コア最下部は約2万年前とわかった.また,コアの912-924cmで確認された火山灰が桜島薩摩(〜13ka)と同定された.さらに,PC1コアについて浮遊性有孔虫を用いて過去の水温の復元を試みた.その結果,東シナ海における最終氷期の水温が現在に比べ3〜4℃ほど低く,また,完新世においては4千年前頃に水温が低下していることがわかった.
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