まず3次元球殻マントル対流シミュレーションプログラムの改良を行った。具体的には、流れ場から剛体回転成分などの不定性を除去する方法に見直しを加えた。その結果、本プログラムの基盤技術の1つであるACuTE法の反復収束との親和性が向上し、特に粘性率の空間変化が大きい問題を扱う場合の計算量の大幅な低減を達成した。さらにこの改良により、対流層内で粘性率に10の7乗倍ものコントラストがある場合でもシミュレーションを安定的に行うことが可能となった。 また、シミュレーションに用いる流体モデルの高度化も行った。第1に、従来のマントル対流モデルでよく用いられている「非圧縮性流体」という近似を改め、「非弾性流体」近似に基づくモデルへと改良した。これにより、断熱圧縮による密度変化の影響だけでなく、力学的な仕事から熱的な仕事への変換の効果も含めることが可能となった。なおこのプログラムは、最近行なわれた圧縮性マントル対流プログラムのベンチマークの1つとして採用された。さらに、CIP-CSLR法に基づいた移流方程式の高精度ソルバを3次元箱型プログラムに導入することにも成功した。このプログラムを用いて2成分系流体の予備的なシミュレーションを行ったところ、シャープな物質界面が正しく捕獲されるだけでなく、物質の総量が十分な精度で保存していることも示された。 これらの成果は日本地球惑星科学連合2009年大会及びAmerican Geophysical Union 2009 Fall Meetingにて発表済みである。また雑誌Geophysical Journal Internationalに査読つき論文として掲載されたほか、Physics of the Earth and Planetary Interiorsに投稿中である。加えて、本研究で開発したプログラム一式を研究代表者ホームページよりダウンロード可能な状態に整備した。
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