南極や北極のフィルン空気を用いた空気の解析によって、過去の大気中における温室効果気体の変動を明らかにするために、本年度は特に微少量のフィルン空気による高精度分析法の開発を中心に研究を進めた。微量気体成分の高精度分析について実績のある東北大・大気海洋センターとの共同研究により、わずか数ccのサンプル量だけを用いて、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の各濃度について、それぞれ0.3ppm、1.4ppb、1.1ppbの繰り返し再現性を実現した。数十ccから数百ccのサンプル量を必要とする従来の分析方法に比べると、再現性の点ではやや劣っているものの、フィルン空気の濃度分析のためには、十分な精度を確保しており、また格段にサンプル量を減らすことができる点で極めて大きなメリットを持つ。さらに、過去100年間にわたる大気中成分の濃度変遷に対応した、ワイドレンジの分析作業用標準ガスを整備し、第一次標準ガスによるキャリブレーションによって、既存の濃度スケールとの整合性を確保した。この分析システムを用いて、南極YM85地点において2002年に採集されたフィルン空気の分析を実施した。その結果、深度70メートル付近における二酸化炭素とメタン濃度が、およそ304ppm、970ppbと極めて低く、1920年代の空気であるものと推定された。また、フィルン空気成分を支配する重力分離効果や年代分布の概念が、成層圏大気中の成分においても全く同様に適用できる可能性が近年示唆された。このことから、重力分離がフィルン空気の平均年代に及ぼす影響の評価にとって、成層圏大気の年代の評価方法が役立つものと期待される。
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