従来のフィルン空気拡散モデルを、涵養量の時間変化を含むダイナミック・デンシフィケーション・モデルとカップリングさせて新たな数値モデルを構築した。雪氷物理学の研究を進めている国立極地研究所より、フィルンの密度分布などの雪氷物理のデータの提供を受けて、これをモデル計算の入力に用いた。同時に、各成分の鉛直分布を時間変化に焼き直すために、空気主成分である窒素分子や酸素分子の重力分離データを用いた補正と、急激な大気中の変化に対して分子量の違いによる同位体分離が生ずることに起因する分子拡散効果の補正を施す方法を確立した。この数値モデルを用いて、南極氷床のフィルンにおいて採取された空気を用いて分析されたメタン濃度とその炭素および水素同位体比について計算を行った。観測された濃度と同位体比の鉛直分布が再現できるような、過去100年間の大気中の濃度と同位体比の変遷を推定した。大気中のメタン濃度の過去の変遷は、反復法を用いた計算によって推定した。一方、同位体比の変遷の推定は、仮定しているフィルンの内部の分子拡散係数のわずかな不確定性が、反復法による推定結果に大きく誤差伝播するために、困難であることが判明した。したがって、過去の大気中の同位体比の変遷については、現実的な発生源の推定値をもとにして、可能性のある多数のシナリオを作成し、観測された鉛直分布をより良く再現するものを解とした。これらのメタンの濃度とその同位体比の大気変動の逆推定により、過去100年間では、バイオマスマス・バーニングに伴うメタンの放出が重要であることが判明した。また、昨年度の研究成果である、成層圏大気中の重力分離現象との相似性について、さらに研究を進めた結果、成層圏大気中の二酸化炭素の炭素同位体比の変動について、フィルン空気における重力分離の理論が適用できることがわかった。この成果を第8回二酸化炭素国際会議において発表した。
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