本研究は、日本海溝など急斜面を持つ深海底上で観測される強い海流の形成・維持機構を数値実験により明らかにし、気候モデルなど細かな海底地形を解像できないモデルでもその海流を再現できるようにパラメータ化を行なうことである。 20年度は、19年度に準備・作成した数値モデルとNCEP reanalysis2の海上風データを使って、深層流の時間変動をターゲットとした数値シミュレーションを実施した。静止状態から40年問、気候学的な日データによって駆動し、さらに1979年からの実際の日データによって2007年12月までを計算した。モデルの等密度面(層の境界面)が海底と交差する部分に生じる数値的なノイズを抑えるため、モデルの細かな解像度に対して大きめの粘性係数を用いる必要があり、これは21年度で実施する場合の課題である。また、このためか、変動流の非線形相互作用によって海溝内部に生じるであろうことを期待していた変動流成分はあまり強くなかった。 モデルの結果を実際に日本海溝近傍において得られた観測データと比較をした。三陸沖日本海溝近傍の北緯38度線で1997年と2006〜2008年に係留流速計の流速である。流速計は数ヶ月に卓越する変動流を捕らえており、海溝内部ではこの変動流が平均流と同程度であるため、海溝内の流れを止めたり流したりする役割を持ち、一方、大洋底部分では平均流が弱いため、顕著な変動として現れているものである。モデルでは定常流が再現できていないため、変動流については卓越周期をふくむ流速スペクトルの形状は、観測のものと極めてよい一致を示した。しかし、位相に関してはあまり合わない。これについては、モデルの粘性係数や成層の強さなどを検討する必要があると考えられる。
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