熱潮汐波による金星大気スーパーローテーションの生成メカニズムの妥当性を検討するには、熱潮汐波によって誘導される平均東西流と(太陽加熱によって励起される)平均子午面循環の相互作用を明らかにすることが必要である。簡略化した放射モデルを用いて調べたところ、従来の知見とは異なり、平均子午面循環は下層(0-10km)と上層(50-70km)の2つのセルに分離することが示された。同時に、雲層以下の平均東西流が極端に弱くなり、熱潮汐波メカニズムと子午面循環(Gieraschメカニズム)は相互に破壊的な作用を持つことが示唆された。今後は両メカニズムの相互作用を調べることが重要であろう。 上記研究と平行して、金星大気の特性を考慮した放射モデルの開発を進め、最新の気体吸収線データを用いて金星大気中の波数・高度別の吸収係数分布を推定すると同時に、k-distribution法を用いた放射モデルの開発を行った。従来の研究では、金星大気の放射過程として非常に簡略化した放射モデルが使われており、結果として得られた平均子午面循環の分布などの信頼性に疑問があった。本研究の成果はこの問題点を解決するものであり、大気スーパーローテーションのメカニズムを研究する上で必要不可欠なものである。また、モデル開発と平行し、光学的に厚く、太陽光吸収が大気の上層にある大気の放射特性を地球大気の放射特性と比較・考察し、放射平衡分布が静的不安定になる一般的な条件などに関し興味深い結果が得られた。結果は気象学会機関誌「天気」に投稿した。
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