研究概要 |
本研究を実施するため,主として次の3つの作業をおこなうことを計画した.1:衛星観測からの大気微量成分全球データの収集とその整理,2:オゾン・水蒸気ゾンデなどのデータとの比較・検証,3:大気化学モデル結果との比較・検討.昨年度はこのうち主として上記1,2の作業をおこなったが,本年度もこれらを継続し,さらに扱う衛星データを加えて以下のような成果を得た.なお,3の作業について,試験的にいくつかのモデルデータ結果を参照したが,本格的な解析作業にまでは至らなかった. H19年度に主として解析をおこなったEOS/AURA衛星搭載のMLSデータは,データの品質はよいが提供期間が短く,長期変化傾向を調べるには不十分である.そこで,1991-2005年の観測があるUARS衛星搭載のHALOEデータを入手し解析した.同時に,熱帯域のオゾン・水蒸気ゾンデデータを収集・整理し,熱帯対流圏界面から下部成層圏における水蒸気混合比の年々変動や関連したオゾン変動について調べた.さらに補助的に全球客観解析データも利用して,こういった変動要因となる大気波動成分についても調べた. ゾンデデータと衛星データとの比較から,ゾンデデータが衛星データでは表現できないような高度方向に薄く鋭敏な鉛直構造を示し,時間経過を保持した最大・最小値を含むゾンデ水蒸気プロファイルには明瞭な年々変動のシグナルを見て取れることが分かった.また,HALOEとゾンデデータを比較しながら熱帯下部成層圏における水蒸気の長期変動について調べたが,HALOEデータではしばしば指摘される2000年代に入っての水蒸気量の急減はゾンデデータにおいて必ずしも明瞭ではなく,ゾンデデータは長期的に見て増加傾向を示すと判断される.今後は,観測する時期や場所をうまく戦略的に選択して上で,長期間のゾンデ観測をおこなうことが,成層圏における水蒸気収支の定量化に向けた研究上必要である.
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