1バリアレイヤーの形成が南太平洋熱帯水(赤道の亜表層に分布する南太平洋起源の高塩分水。以後、SPTWと記述する)の影響を受けていることを確認するため、曳航式CTDにより観測された水温・塩分断面図の解析を行った。観測断面では、表層の低塩分水とSPTWの間に中間的な水が存在し、バリアレイヤーを形成していた。この水は、赤道の塩分フロント付近で低塩分水と上部の軽いSPTWが混合して形成されおり、また、上部のSPTWは、ニューギニア島、もしくは、ニューアイルランド島沿岸から赤道へと進入する下部の重いSPTWと異なり、太平洋赤道域中央部から西へと移流されて来ることが示唆された。データ同化システムの計算結果を用いて上部のSPTWの変動要因を調べたところ、太平洋赤道域中央部における蒸発量の変動に、大きな影響を受けていた。このことから、ラニーニャ期の強い貿易風による盛んな蒸発が、上部SPTWを高塩化させバリアレイヤーの形成を促進することが、後のエルニーニョ発生の一つの要因となる可能性が示唆される。 2準結合同化システムにおいて、気候値を用いた海面塩分の修正を弱めたところ、従来と同程度の精度のデータが得られ、さらに、表層水温とSPTWの変動の相関関係が強くなった。この結果から、SPTWの変動のENSOに対する影響が従来の研究成果に増して重要であることがわかった。 3本研究では、データ同化結果や観測データの解析を通して、バリアレイヤーの形成やSPTWの変動に関する理解、及び、準結合同化システムに関する改良が進んだが、SPTWの変動とENSOの関係については、未だ、十分に解明されていないので、今後も研究を進めていく。
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