研究概要 |
平成19年度に沖縄県伊江島沖の海底洞窟「大洞窟」から長さ233cmの堆積物コア試料を採取した.この試料の基底から産した二枚貝の放射炭素年代は暦年代で7,160±100年前を示す.今年度は本コアから160個体の微小二枚貝Carditella iejimensisのδ^<18>O値を測定した.その結果,沖縄サンゴ礁海域の水深30mの海洋環境は,少なくとも5,000年間は現在とほぼ同じだったが,7,000年前から5,000年前までの期間に,0.5‰以上の高い値を示す個体が100年に1回程度の頻度で見られることが分かった.海水の同位体比が変わらないとすると,10℃近い水温の低下が起きたことになる.この沖縄海域の高いδ^<18>O値多発現象は,北大西洋において氷山が大規模に流出した時期(ボンドサイクル4),冬季モンスーンの活動の活発化した時期に一致する.このことから高いδ^<18>O値多発現象の発生メカニズムとしては以下のシナリオが想定される.すなわち,1,500年周期の太陽活動の低下に伴ない,強烈なブロッキング現象が発生し,その結果,冬季モンスーンを強化され,東シナ海陸棚において海水の低温化・塩分増加をもたらした.その後,この水塊は沖縄トラフの中深層へ沈み,東進し,沖縄の水深30mまでに達し,C. iejimensisのδ^<18>O値に記録されたのである.この解釈が正しいとすると,太陽活動の低下は日本本土のみならず沖縄海域までの気候変動に影響を及ぼす可能性がある.
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