研究概要 |
アジア大陸南東縁における下部白亜系非海成二枚員類は,今まで淡水生二枚貝中心に検討され,議論されてきた.今回は,汽水生二枚貝類の特徴を明らかにするため,日本,中国東北部,台湾,チベットから産する汽水生二枚貝を検討した結果,Costocyrena,Isodomella,Pulsidisがアジア大陸南東縁にのみ知られ,本地域を特徴付ける汽水生二枚貝群集であることが明らかになった.また,汽水生二枚貝群集は南方分布型と北方分布型に区分され,日本は両群集が漸移する場所に位置していたことが明らかになった. また,岐阜県荘川地域の大黒谷ルートにて手取層群の化石群集を調査した結果,鹹度の高い順から,Tetoria群集,Melanoides群集,Myrene群集が分布していたこと,淡水域にはViviparus群集が分布していたことが推定できた.石徹白亜層群中で最も鹹度の高い環境はカキ類ぶ生息する環境であり,いわゆる"干潟"ではなく,汽水湖であったと推定されるので,上記の汽水生貝類は干潟よりも鹹度の低い汽水湖のものであると推定できる,これは汽水湖に発達することの多いお歯黒泥と呼ばれる硫化鉄に富んだ極黒色粘土が続成を受けたと思われる黄鉄鉱に富む黒色泥岩からMyreneが多産することからも分かる.このような広大な鹹度の低い汽水域が広がる環境がつくりだされたのは当時のテクトニクス背景のためであり,白亜紀最前期の特徴的な汽水環境であったといえる.この特異な環境の中で白亜紀中期まで栄えるTetoria類が進化しており,石徹白亜層群の広大な低鹹度水域形成は東アジアの汽水生貝類の進化史の中で重要なイベントとして位置づけることができる.
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