研究概要 |
長い水管を有する最も初期の異歯類であるTetoria sanchuensisの生息地を特定するため、徳島県上勝町柳谷・辰ヶ谷林道の下部白亜系を調査した結果、本種の自生産状はエスチュアリ堆積物の上部にあり、湿地堆積物やレンズ状層理の発達した泥質干潟堆積物に整合的に覆われる泥質干潟堆積物(黒色泥岩)中であった。また、本種の自生産状は、本露頭以外の砂質干潟堆積物からも、自生のC. radiatostriataなどと共に確認できた。以上のことからT. sanchuensisの生息環境はエスチュアリの中でも、より湾奥部または陸域に近い環境である泥質干潟からその周辺の砂質干潟であり、広範囲の底質に分布していたことが明らかとなった。エスチュアリ奥部は浮遊泥の堆積が頻繁に起こると推定される場所であり、水温や塩分など、環境変化の緩和効果よりも、埋没からの脱出や浮遊泥による鰓詰まりの回避が必要と考えられる。したがって,ここにT. sanchuensisだけが生息できたことは、新たに獲得した長い水管が埋没からの脱出や浮遊泥による鰓詰まりの回避に役立ったと推定することができる。 また、白亜紀前期における淡水生二枚貝の多様化と気候との関連を探るため、熱河生物群の産出する中国東北部において研究を行った。白亜紀初期では半乾燥気候が推定され、また全体に凝灰質であることから生物の生息には過酷な環境であったのか、泥岩から二枚貝が希に産出するのみであった。その後、温暖湿潤気候に変化するにつれ、泥岩からの二枚貝の産出も多くなり、生息域が広がったことが推定された。しかしながら多様性は低く、1種のみが多産する状況であった。アプチアン以降では砂岩からも二枚貝が産出するようになり、浅い環境下にも二枚貝が生息し、生息域の広がりとともに多様性がみられるようになった。このように、淡水域では気候の変化に呼応しながら生息域を変え、気候的に安定した環境下で多様性を広げるという傾向が確認された。
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