研究概要 |
(1)下部白亜系篠山層群下部層の石灰岩礫中、ならびに兵庫県下の上部白亜系火山砕屑岩類に介在する岩屑堆積層に含まれる石灰岩礫中の有孔虫化石の年代分布と群集組成を明らかにした。その結果、石灰岩礫のほとんどすべては現在の含礫層分布域から50~150km離れた秋吉テレーンと舞鶴テレーンに由来することが判明した。これら白亜系陸成層は丹波帯・超丹波帯の付加体を不整合に被うが、明確に両帯に由来すると考えられる岩片は見出されなかった。西南日本内帯の先白亜紀付加体は褶曲波面がほとんど水平なナップ構造をつくっていることから、秋吉・舞鶴テレーンは白亜紀には現在の分布域よりもはるかに南側に張り出していたと推定され(Kobayashi,2008,2編)、その後の浸食により現在ではクリッペとして残存するという見解(小林,1996)を指示する。篠山層群下部層から新たに見出された2.7億年前の結晶片岩礫(小林・後藤,2008)からも同様なことがいえ、篠山層群下部層堆積時の後背地の地質や西南日本基盤岩類の構造発達史の考察に重要である。 (2)南部北上テレーン、気仙沼地方の中部ペルム系上八瀬層と細尾層の岩相層序とフズリナ化石の研究から従来の南部北上ペルム系生層序と対比論は一部、大改定を要することが明らかになった。堆積場や堆積過程についても新たな解釈を示した(椎野ほか,2008; Kobayashi et al., Paleontological Research印刷中)。 (3)ジュネーブ大学のRossana MartiniとJerome Chablaisとの共同研究で、関東山地南部の数地域で御前山層(ジュラ紀後期~白亜紀前期付加体)の巨大石灰岩ブロックの地質調査と高精度サンプリングを行った。ヨーロッパ各地の三畳紀石灰岩の多様な石灰岩相と有孔虫化石群に詳しいスイス人との野外調査研究の経験は他の日本の三畳紀石灰岩の調査研究にも活用されると考えられ、非常に有益であった。室内作業は現在進行中であり、得られた知見を連名でヨーロッパの国際誌に投稿する予定である。 (4)イタリアドロミテ地方のペルムー三畳系境界層やジュラ山地のジュラ系石灰岩の詳細路頭観察は堆積過程や起源を異にした同時代の日本の石灰岩研究に大いに役立つ。関連分野の諸問題の究明にも有効であると想定されることから、地質学雑誌口絵に前者の重要路頭とそのもつ地質学的意義の概要を紹介した(Kobayashi & Martini,地質学雑誌印刷中)。 (5)トルコ、タウルス山地の石炭紀とペルム紀の有孔虫群集組成を明らかにし、それらの年代と対比をグローバルに論じた。得られた成果は石炭紀~ペルム紀の汎世界的な海水準変動と連動した生物多様性の変遷過程、ならびにテーチス西域と東域の古生物地理の研究進展に貢献する(Kobayashi & Altiner, 2008)。
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