広島県の下部中新統である備北層群塩町層から発見されたヒシ科の新属化石の特徴をより明確なものにし、この新属を鍵にしてヒシ科の進化系統を解明するために、以下の研究を行った。1)秋田大学鉱業博物館・東北大学理学部自然史標本館、福島県立博物館、産業総合研究所地質標本館、国立科学博物館、瑞浪市化石博物館に所蔵されているアスナロビシ属化石について、新属化石との比較研究。2)岐阜県土岐市(東海層群)、福島県いわき市(常磐炭田紫竹層)の地質調査、標本採集。 その結果、次のことが明らかになった。(1)果実化石の中央に観察できる条線は、子房の維管束である。(2)頂環は存在しない。(3)子房上位である。(4)4つの萼をもつ。子房の基部の中央に観察される子房の背面に伸びるトンネル構造は、子房の背面に存在する萼へ続く。この中央のトンネル構造と左右の萼片の間にあるやや径が小さいトンネル構造は維管束の分布を示す。現生のミソハギの萼筒との比較研究から、この維管束は萼筒を通り、花弁へつながる維管束と考えられる。(5)萼は萼筒を形成し、成熟後あるいは化石化の過程で4つの萼片に分離し、離脱することもある。(6)萼筒の筒状部は、木化の進行が最も低い場合には独立した花弁・副萼管束が見られるが、木化が進んだ型では、側裂片側の穴がふさがれ、さらに進んだ型ではすべての穴がふさがれる。(7)萼筒は副萼をもつ。逆刺と萼の突起は維管束でつながっており、膜状の萼を形成していた。(8)子房は扁平で二軸相称性をもつが、萼筒は放射相称性をもつ。 以上のように、印象化石ではあるが、塩町層産のヒシ科果実化石の構造を明らかにできた。塩町層産ヒシ科化石は、Hemi trapaと異なる形質をもつので、ヒシ科の新属とするのが妥当である。この化石はミソハギ科とヒシ科をつなぐ特徴をもつ化石であると考えられる。
|