研究概要 |
上部マントルでマグマが発生し地殻へ移動するまでの過程と、その間のマグマおよび上部マントル物質の化学的変化を明らかにする事は、地球科学の根源的なテーマの1つである。そのためには、マグマの移動経路である上部マントル物質を研究する事が重要である。そこで本研究では、世界でも有数の新鮮さを誇り、かつ、通過マグマが固結して生じたとされるダナイトチャネルを産する幌満かんらん岩体を対象し、ダナイトチャネルと壁岩の鉱物のRb-Sr同位体・主成分・微量元素組成を求め、以下の知見を得た。ダナイトチャネルと壁岩の両輝石はともにサブソリダス下で化学的平衡にあることがわかった。この平衡をもたらしたイベントのRb-Sr年代50Maは、日高変成帯のピーク変成年代(51-56Ma, Owada et al., 1991, 1997)とほぼ一致する。これら変成岩の熱源としては日高帯に多量に産する苦鉄質岩が熱源として考えられ、これらの苦鉄質岩は沈み込み帯での海嶺沈み込みで生じたと考察されている(e.g., Maeda and Kagami, 1994, 1996)。両輝石を晶出したメルト組成は、Srの正異常とTiの負異常という島弧マグマの特徴を持つものの、島弧マグマで特徴的なNbの負異常が認められない。Sr正異常を持ちNbに富む玄武岩は島弧トレンチと海嶺の衝突域で形成されたと解釈されており(e.g. Hole, 1990)、日高帯の苦鉄質岩の形成モデルとも調和的である。従って、幌満岩体に産するダナイトチャネルは、約50Maに海嶺の沈み込みで生じた玄武岩質メルトの通過で生じたと考えられる。これらの内容については、Goldshimdt国際会議において発表され、その講演要旨がGeochimica Cosmochimia Actaにて公表されて、鉱物学会においても発表されている。
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