申請者らは、原子炉で中性子照射された放射能を持つ試料を扱うことができる施設内に国内で唯一のI-Xe年代測定装置を立ち上げた。この装置を用いて隕石の年代測定をおこなうことにより、太陽系初期の惑星形成史の解明を目指して研究を進めている。 本基盤研究の目的は、我々の予備的な測定によって得られたハロゲン濃度の高い非平衡コンドライトや太陽風を多く含む角礫岩質コンドライトが、炭素質コンドライトの年代より20-50Myr後にリセットされた年代を示すことを詳細に検討することである。この研究により、微惑星で起こったI-Xe系のリセットの時期を手がかりとして、隕石母天体形成後に液体の水が形成されることにより起こった水質変質の時期や、隕石母天体表面への他の微小天体衝突と太陽風起源粒子の叩き込みの時期など解明して、このような太陽系初期に起こった出来事に時間軸を導入して議論できるようになることが期待できる。 2ヵ年計画の1年目は、いくつかの太陽風を含む隕石のI-Xe年代測定を進めながら、この分析で重要な改良型希ガス抽出炉の製作を行った。第1号炉は、加熱温度をコンピュータコントロールで行えることや、小型で人力電力に対する昇温の効率が良いなどの長所があったが、放射性物質を扱うことを考えて、試料と接触する可能性がある部品を簡単に取り外して廃棄できることを重視したため、加熱時に試料から蒸発する物質が真空炉内に拡散することに対する対処が十分でなかった。改良版の第2号炉では1号炉の長所を生かしながら、放射性物質により安全に対応出来、多数の試料を効率的に分析できるようになった。この新型炉を使った分析システムは、I-Xe年代測定ばかりでなく、Ar-Ar年代測定、中性子照射によるハロゲンからの希ガス同位体への変換やウランの核分裂を利用した極微量のハロゲンやウランの定量にも使われている。これらの研究を支える希ガス高感度分析法の開発も現有の別の質量分析装置を用いて進めている。
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