電波天文学の発達により星間空間の分子雲の中に120種を超える分子が存在することが確認されているが、生体の基本分子であるアミノ酸はほとんど観測されていない。最近、星間空間の環境を実験室内に再現し、アミノ酸が生成されることを示すいくつかの論文が報告された。また、COOH基を持つ分子はCN基を持つ分子より紫外線照射に対して不安定であり、アミノ酸は分解されやすいことを示唆した報告がなされた。 本研究では星間空間に類似した極低温イオントラップを作製し、極低温状態のアミノ酸に真空紫外光を照射し、その解離物の質量を詳細に分析することで、生体の基本分子が星間空間ではどの様な形で存在しているのかを明らかにすることを目的としている。極低温状態での光解離は、室温での実験から予想される解離過程と異なること考えられる。 今年度、新規な装置の開発に着手し、イオントラップに効率よくイオンを蓄積する新しい手法を見出した。さらに、従来の手法では励起状態と基底状態の両方を含んだイオンが生成されるが、本研究で開発した手法では基底状態のイオンのみが生成できる特徴を有している。基底状態のイオンを利用することで、光解離の初期状態が既定できるため、複合的ではない単一的な反応経路を決定することが可能となる。今後、極低温状態における光解離実験を行い、アミノ酸などの生体分子の光分解過程、分解物の構造を決定する予定である。
|