アルカリ金属元素は典型元素で存在量も多いが、その特異な性質のために、太陽系初期の多様な分別過程、特に水の関与する過程において非常に大きな移動・分配を起こしている。本研究は、隕石中のアルカリ金属元素の存在度とそれに関連する元素の同位体比を精密測定し、これらの元素がいつどのような過程で移動したかを解明することを目的とする。 本年度は昨年度に引き続き、非常に強い水質変成を受けた炭素質コンドライトである狭山隕石中のコンドルールの分析と得られたデータの解析を行った。本年度購入のパーソナルコンピュータは得られたデータを整理する一助とし、また昨年度購入した質量分析計用プリアンプボードに使用されているオペアンプを交換し、ノイズに強くなるようさらに改良を行った。狭山隕石中のコンドルールは顕微鏡下でハンドピッキングにより取り出し、酸による多段階抽出を行ってアルカリ金属元素の定量とBa同位体分析を行った。狭山隕石のバルクのBa同位体組成はBa-135とBa-137に異常があるs-過程元素合成により生成された成分の影響を大きく受けているが、コンドルールでは酢酸で抽出したフラクションのみが同じパターンを示し、0.1モル塩酸による抽出フラクションでは、ほとんど同位体異常が観察されなかった。さらに強い酸(2モル塩酸、王水)で抽出したフラクションと酸残渣のフラクションでは消滅核種Cs-135からできるBa-135の明確な異常が見られた。ただし、得られたデータをアイソクロン様にプロットすると原点を通らない直線となり、傾きもCAIから求められた値よりも数倍大きくなった。したがってこの結果はアイソクロンではなくミキシングであると考えられる。2モル塩酸ではかんらん石が溶け出すため、これらの結果から水質変性によるかんらん石のフィロケイ酸塩への変質の時期に制約を与えることができるものと考えられる。
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