アルカリ金属元素は典型元素で存在量も多いが、その特異な性質のために、太陽系初期の多様な分別過程において非常に大きな移動・分配を起こしており、その痕跡は隕石中の各種構成成分に見つけることができる。本研究は、隕石中のアルカリ金属元素の存在度とそれに関連する元素の同位体比を精密測定し、これらの元素がいつどのような過程で移動したかを解明することを目的とする。 本年度は昨年度の狭山隕石に引き続き、6種類の炭素質隕石からアルカリ金属元素の定量とBa同位体分析を行った。データ解析のためにFortranコンパイラを購入し、研究代表者らが以前に開発した平衡凝縮のモデル計算を行えるようにした。また、中性子照射による同位体の変動を見るために、研究協力者の広島大学の日高洋教授とともに火星隕石やガスリッチ隕石の同位体分析を行い、研究発表を行った。 狭山隕石のコンドルールでは強い酸で抽出したフラクションと酸残渣のフラクションで消滅核種Cs-135からできるBa-135の明確な異常が見られたが、バルクのBa同位体組成はBa-135とBa-137に異常があるs-過程元素合成により生成された成分の影響を大きく受けていた。新たに分析した6種の炭素質隕石のうち、CIコンドライトやCMコンドライトに分類される3種の隕石も同様にs-過程成分の影響が大きかった。しかし詳しく解析すると、s-過程成分を差し引いて得られたCs-135の同位体異常はCMコンドライトではCs/Ba比に相関し、一方、CIコンドライトや狭山隕石では相関が見られなかった。これは後者が消滅核種Cs-135の壊変後に水質変成で元素が大きく移動したことを示している。また、前者のデータより、太陽系初期のCs-135/Cs-133比は2.2-3.1x10^-4と見積もられた。
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