量子化学計算を用いて決定された原子間ポテンシャルに基づき、GaN結晶に対して、古典的な分子動力学シミュレーションを実行した。不活性ガス・イオンであるArを(0001)結晶表面に入射させ、物理スパッタリング率の、イオンエネルギー及び入射角度依存性の、統計的に有意な基礎データを収集した。また、以下の点を明らかにした。原子間の衝突カスケードに伴うスパッタリングは、Ar入射後100fs以内に生じる。ホットスポットはAr入射後200fs程度から発生する。N原子の方がスパッタリングされやすい。またスパッタリング閾値エネルギーは、N原子に対しては、100eV程度である。次に、イオンエネルギーの導入によって結晶中にもたらされる点欠陥の発生に着目して、そのダイナミックな物理機構を明らかにした。すなわち、結晶内から放出された原子は、表面上に、GaとNが交互に連係したリング状の構造を作ること、結晶内にGaとNがペアになったショットキー欠陥が生じること、また、フレンケル欠陥は主にGa原子に対して生じる。 GaN結晶を用いた半導体レーザにおいては、原子層レベルにて異種材料間の界面制御が必要な活性層を有し、点欠陥や転位等の物理的なダメージに対する感受性が高い。本研究の実績は、GaN結晶のドライエッチング微細加工の基礎的な物理機構を、ナノスケールのミクロな観点から明らかにしたことを特色とする。すなわち、本研究は従来の実験データを説明し、あるいは新しい実験手法を提案するための基礎データを取得したという、学術的に高い価値がある。今後は、実際のプロセスで用いられている塩素ガス・イオンへの拡張を検討する。
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