研究概要 |
この研究ではチャームクォークと反チャームクォークの束縛状態であるチャーモニウム(特にJ/ψ,χ_c,ψ'状態など)がクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)相中で、それぞれが散乱状態としてバラバラになってしまう「チャーモニウム状態の消失温度」を有限温度格子QCD数値シミュレーションによって求める事を目的とする。 これらチャーモニウムの消失温度は重イオン衝突実験でのQGP生成を示す重要なシグナルの一つである「J/ψ抑制」のシナリオを議論する上で必要となるパラメータである。 19年度の計算ではまず動的クォークの効果を無視した近似で計算を行った。 固定格子間隔の計算でゼロ温度を含め、T/Tc=0.88-2.3までの6点の温度で(1)状態のエネルギーの境界条件依存性、(2)Bethe-Salpeter波動関数の体積依存性、の計算を行った。状態のエネルギーの計算には相関関数行列の対角化を用いた方法を利用した。相関関数行列は異なるガウス分布のクォーク空間分布関数により6x6行列を計算した。 これらの計算により、T/Tc=2.3の高温までエネルギーの境界条件依存性が全てのメソンチャンネルで観測されなかった。また、波動関数の空間体積依存性を見てもT/Tc=2.3で束縛状態を示す結果をしめした。J/psi粒子を含むS波基底状態の場合は以前から知られていた結果であるが、chi c状態を含むP波状態、さらに対角化の手法で求められた各励起状態に対しても同様の結果が得られた点が新しい。 これは上記のJ/psi抑制のシナリオに大きな影響を与える結果になるかもしれない。同様の手法によるフルQCDの計算が期待される。
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