本年度は、MEG実験で本格的な物理データ取得が9月より開始された。この物理データを意味あるものにするためにはMEG検出器の性能評価、較正が決定的に重要となっていた。このため物理データ取得の前に、パイ中間子ビームを用いて液体キセノン検出器の較正を約1か月行った。 まず液体キセノン検出器の位置分解能測定を場所ごとに評価するために2種類の鉛コリメータを製作した。前年度は鉛板に穴を開けたが、事象数がかなり削減されてしまい場所ごとの評価が難しくなった。この経験を踏まえ、本年度は水平方向、垂直方向にスリットを設け、それぞれ場所ごとに水平、垂直方向の端の分布を利用して分解能を評価した。この手法でも液体キセノン検出器すべての面を覆うことは時間的にも難しく、典型的な4か所に8枚の鉛板を設置し測定して全体での分解能を推測した。 次に液体キセノン検出器と陽電子検出器同時に較正する方法の検討を行った。液体キセノン検出器の較正にはπ-p→π°n、π°→2γ崩壊からのガンマ線を利用するが、Dalitz decayであるπ°→e+e-γを利用するとエネルギー、方向は異なるが時間は同時となるため、時間分布が物理事象と全く同じの最適な較正手段であることがわかった。この事象を検出するためにトリガーを設定し、物理データ取得の絶対時間較正に使用した。 9月より物理データ取得が開始されたが、その間も検出器の性能をモニターする必要があり、この目的のためにミュー粒子輻射崩壊事象μ->evvγの検出を試みた。ビームレートが高いとこの事象は埋もれてしまう可能性があり、最初はビーム強度を落として取得した。この事象の取得に成功し、液体キセノン検出器と陽電子検出器の相対時間が時間とともに変化する様子が確認された。この結果は重要であり、補正により物理データの信頼性が増した。
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