分子クラスターの安定構造は、分子の位置と配向の自由度により指数関数的に増加する。したがって、最安定構造をその中から求めるのは困難である。本課題では、この大域的構造最適化の効率的な方法の開発・改良を昨年度に行い、それを二酸化炭素クラスターに応用した。その結果、サイズ(分子数)が40までのクラスターの最安定構造を計算することが可能となった。さらに、25分子までの水クラスターについて計算を実行した。本年度は、昨年度の結果を踏まえ、以下の成果を得た。 1、二酸化炭素クラスターの構造のサイズ依存性-構造転移の検出 得られた最安定構造の特徴を調べるために、クラスター内に存在する近接13分子の局所構造を解析した。それにより、サイズが35より小さいクラスターでは、20面体構造をベースとした構造を取るが、サイズが35で結晶構造に類似した構造に転移することがわかった。サイズが40までのクラスターの構造を計算したことにより、この構造転移を明らかにすることができた。 2、分子数が26から30まで水クラスターの構造最適化-水素結合の構造最適化効率への影響 このサイズの水クラスターの構造最適化は、二酸化炭素やベンゼンから構成されるクラスターの最適化より困難であることがわかった。水クラスターの構造最適化の困難さは、水素結合ネットワークの変化により、類似のエネルギーを持つ多くの構造が生成可能であるためであると考えられる。さらに、得られた結果から、本最適化法が既報の構造より安定な構造を検出していることもわかった。 以上のことから、分子クラスターの構造化学を研究する上で、本課題で得られた分子クラスター大域的構造最適化法が有効であると考えられる。
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