研究概要 |
1. 分子制御実験(1) シュタルク分子制御 : 強電場を用いた分子の並進運動と配向制御をする研究を行つた。本研究では40kVの高電圧を用いることで、100 MV/cmの強電場を矩形波として印可できる装置を製作することができた。この電源はトランジスタスイッチで制御され、スイッチングにおけるノイズを極めて低く抑えることに成功した。このことにより並進運動と配向制御が可能となった。 (2) 多環芳香族炭化水素(PAH)とアミノ酸の電子分光 : PAHとアミノ酸を気相に生成し、準安定励起原子He^*(2^3S)の衝突によるペニング電子分光とHe I紫外光電子分光を行った。PAHはHe^*と面外方向で引力的な、面内方向では斥力的な相互作用を示すことが分かった。ピレン、クリセン、コロネンでは外形による特異性は見られなかった。また、最も小さなアミノ酸であるグリシンについて、コンフォーメーションの違いによる変化を明らかにした。その結果、アミノ酸では窒素原子と酸素原子の非結合性軌道が特徴的な挙動を示し、アミノ酸の立体構造のマーカーとなることを見出した。 2. 基準振動計算と電子状態(1) ナノ炭素構造の分散関係 : 炭素ナノリボン(グラフェンナノリボン)の振動分散関係をはじめて構築し、特徴的なラマンバンドを与えるモードに関して系統的な研究を行った。 (2) ベンゼン誘導体のラマン強度 : ベンゼン環が置換されたチオアニソール誘導体について、置換基が面外方向に存在する垂直構造において、非全対称低振動数モードが示す大きなラマン強度の由来について研究を行った。4位を置換基X=-NO_2,-CN,-H,-CH_3,-NH_2で置換した分子について計算と実験で研究を行ない、ラマン強度に寄与する軌道間相互作用を自然結合軌道(NBO)を用いて定量化することができた。以上の成果について、国内外の学会で3件の招待講演を行った。
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