研究概要 |
近赤外〜可視領域に現れる芳香族ケチルアニオンの第一電子吸収帯がプロトン性溶媒中で大きく高エネルギー側にシフトする現象には,半世紀近くにわたって多大な関心が寄せられているが,凝縮相の実験から得られる情報のみでは,その解釈の信頼性は乏しかった.本研究では,気相中に孤立したケチルアニオンの溶媒和クラスターを対象とした分光実験を通じて,ケチルアニオンの電子状態に対する溶媒効果を分子レベルの相互作用として理解することを目的とし,溶媒分子数を選別した光電子脱離効率スペクトル(吸収スペクトルに相当),および光電子スペクトルを測定した.また,密度汎関数(DFT)法による構造最適化ならびに電子スペクトルシミュレーションを行った.その結果,ベンゾフェノンラジカルアニオンに対するアルコール分子の配位数が2であることは過去に行われた議論どおりであったが,エネルギーシフトを与える要因としては異なる解釈が必要であることがわかった.即ち,負イオン基底状態における水素結合が励起状態と比べて極端に強いわけではなく,吸収帯のシフトには単純に電子分布に依存する長距離力の変化が反映されているのに過ぎないということである.また,フルオレノンラジカルアニオンについては,溶媒和により2つの吸収帯が生じ,高エネルギー側のものが凝集相のスペクトルに一致することを見出した.この原因については,現在,量子化学計算等を用いて検討中である.
|