研究概要 |
気相分子負イオンを光励起すると電子が直接連続帯に放出される直接脱離の他に, 一旦準安定束縛励起状態が形成された後にトンネリングや非断熱遷移により電子脱離が起きる場合がある。これを自動電子脱離過程という。本研究では自動電子脱離過程を起こす負イオン励起状態を高感度に検出する目的で, 波長可変光源(OPO)を用いた電子脱離効率スペクトルの測定手法を開発した。また, 脱離電子の運動エネルギー分析をするために磁気ボトル型光電子分光器を製作し, 高分解能化を図った。これらの手法をミクロ溶媒和芳香族ケチルアニオン(ベンゾフェノン, フルオレノン等のラジカルアニオン)系に適用し, 光電子脱離効率スペクトルと光電子スペクトルのデータを統合的に解析することによって, 余剰電子の空間分布が溶媒和エネルギーに与える影響を検討した。その結果, 以下の事実が新たに判明した。(1) 凝集相のプロトン性溶媒中で観測されるケチルアニオンの分子内電荷移動吸収帯の大きなブルーシフトの原因は, 従来論じられてきたような電子基底状態における軌道選択的な強い水素結合がに成されるためではなく, 電子状態による静電相互作用の相違の範疇で解釈できること。(2) プロトン性溶媒は経験的に「溶媒極性」が大きいとされるが, それはプロトン性水素原子と負電荷の引力相互作用が近距離において特に有効に働くためであること。(3) プロトン性溶媒中におけるフルオレノンアニオンの吸収スペクトルの特異な変化は, 溶媒和によって誘起された異性化反応に由来する可能性が高いこと, などが明らかになった。
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