研究概要 |
本研究では,いままでの申請者の人工的有機合成反応から生体内の合成反応に展開し,PGES, PGHS, PGIS, TxASによるPGD_2,PGE_2,PGI_2 TxA_2の生合成反応機構を,密度汎関数法などの計算化学的手法を用いて明らかにする.本年度の成果は以下の通りである.(1)アレルギー反応に関与するプロスタグランジンD_2合成酵素(PGDS)あるいはミクロソームプロスタグランジンE_2合成酵素(PGES)によるプロスタグランジンD_2, E_2の生成過程: プロスタグランジンH_2からの異性化反応機構は,プロスタグランジンH_2のエンドペルオキシド部分が結合している炭素上の水素の引き抜きによって開始される機構と,エンドペルオキシド酸素に脱プロトン化されたグルタチオンが求核攻撃する機構の二通りを経由しうることを明らかにした.前者の機構のほうが活性化エネルギーが低いが,後者の場合,生成するアルコキシドイオンが対イオンであるH^+などによって安定化されれば,それほど活性化エネルギーが高くないことを示した.(2) トロンボキサンA_2の生合成反応機構:トロンボキサンA_2の生合成のモデル反応機構をUB3LYP密度汎関数法により検討した.三価の鉄を経由するよりも,酸素-酸素のホモリティック開裂によりいったん四価になってから,炭素-炭素結合開裂によるアリルラジカルの生成,アリル位から鉄への一電子移動により三価にもどる経路のほうがエネルギー的に安定であることを示した. (3)関連する研究として,12族金属イオンのシステインとの相互作用を検討:水分子を考慮しない場合,Zn^<2+>,Cd^<2+>,Hg^<2+>の中でZn^<2+>とシステインとの結合エネルギーが最も強いこと,水和によりHg^<2+>が最も強くなることを明らかにした.
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